80歳の皺だらけの田中泯の新たなチャレンジの女形だけでも見るに値した。底知れぬ魅力「あっ」という間の3時間『国宝』
⭐️80歳の皺だらけの田中泯が、新たなチャレンジで…女形の役。私にはそれだけでも充分に見応えがあった。
*
主軸は、任侠の孤児だが芸達者な喜久雄(少年時=黒川想矢/吉沢亮)と、渡辺謙が演じる歌舞伎役者の息子の半次郎(NHKの大河『べらぼう』蔦重役の横浜流星)が、芸を競い合い、互いの芸事人生の浮き沈みを経ながらも、助け合う〈男2人の〜人生をかけた愛情と凌ぎ合い〉。
*
とにかく全編がグッと観る者に迫る。【あっと言う間の3時間】見終わるのが惜しいくらいだった。
*
【芸事と舞台の厳しさ】のみならず、【互いの弱みを補完し合い、互いの尊厳や芸を認め合おうとする】〜【深い共感的な人間愛と、舞台の高みを目指す芸事への愛と欲】。これらが、ストーリーやセリフの底に脈々と流れている。
*
それらが、この作品を滅多にないほど感動的なものにさせた理由に違いないと感じた。もちろん歌舞伎の芸他を手習いした役者達の努力も並大抵ではなかっただろう(吉田修一の同名小説が原作。脚本は、これまで脚本賞にも輝く奥寺佐渡子)
*
没頭の10分ほどで、完全に心を奪われてしまった。主人公の故郷・北九州、極道一家の新年の大宴会で、15才の時の主人公・喜久雄の女形の魅力的な舞が披露される。そこへ別の組が殴り込みをかけ、派手な乱闘になり、組長夫妻だった喜久雄の父母が殺される。
*
そこへ居合わせていた渡部謙が、喜久雄の芸の才能に惚れ込んで引き取り、喜久雄と自分の同年の息子と並べて、一緒に稽古をつけて歌舞伎役者として育てることになる…。渡辺謙の妻に寺島しのぶ、九州からついてきた喜久雄の彼女に高畑充希…。
*
ネタバレになるといけないので、これ以上の詳細が書けないのが残念だが、これは見ておいて損はない映画だと思う。感動的で厳しくも愛情に満ち、心やさしくてホロ苦い…。監督は、在日三世の李相日(『フラガール』の監督)。
*
奇しくも今日は、日韓国交正常化60周年記念の記念式典が福岡市で催され、ニュースで韓国側の代表が【日本語で】声明文を読み上げている所が写っていた。互いの歴史を背負った中で、凄いことだと思う。
*
私が鍼灸学校で人文科学の講師をした時、日本人の他にも、中国、台湾、北朝鮮、韓国にルーツを持つ生徒がいたが、在日三世である李相日監督の心はいかに?とも思った。
*
日本文化は生まれ育ちの中で自然に馴染んだ文化だろう。この作品は歌舞伎という伝統芸能の継承や、人間国宝に登り詰めた男の一生を扱っている。かたや任侠、背中に背負った彫物と幅があるのだか…。
*
しかも男2人とそれを取り巻く人々は、厳しくも涙溢れるほどの人間愛としてのやさしさと欲も携えている。そこに融和の深い精神性を感じざるを得ない。
*
渡辺謙の起用、歌舞伎という日本伝統文化の中にある女形、日舞、芸子、祇園、任侠の世界の抗争、時代も色濃い1960年代からの約半世紀。
*
日本文化で世界を狙っている気がしたのは私ばかりだろうか?しかも、役者達が、役者として登り詰めてゆくストーリーを演じるというのも面白い。
*
どうしたって、カンヌ辺りを狙っているように思えてならない。そんな風に夢が叶えられたらな、と応援する気持ちになった。
(2025年6月24日)
シェアする